前立腺がんは増えています

以前から欧米では、患者数の多いがんでしたが(アメリカでは男性のかかるがんの1位です)、日本では患者数の少ないがんの1つとされていました。しかし、近年、急激に患者数が増加し、新たに見つかる患者さんは1970年代の10倍になっています。その理由としては、食生活の欧米化、平均寿命の延長、前立腺がん検診の実施などがあげられています。

死亡者数も増えています

前立腺がんは進行が遅く、おとなしいがんというイメージがあるかもしれません。しかし、死亡者数も確実に増加しており、1990年に約3,500人だった死亡者数が2009年には10,000人以上に増加しています(著名人の死亡も時に伝えられます)。
前立腺がんは決して、悪くならないがん、死亡しないがんではありません。私も岩手労災病院、県立北上・中部病院での勤務時代に、残念ながらお見送りした患者さんが年間数人はいらっしゃいました。

早期発見のために~おしっこが出にくい・回数が多い~

がんの治療の基本は早期発見、早期治療です。これは前立腺がんにおいても変わりません。前立腺がんの場合、前立腺内にがんが限局している早期がんの5年生存率は80%程度ですが、骨に転移のある進行がんでは20%程度まで低下します。

前立腺がんは自覚症状の出にくいがんで、以前は骨に転移してから見つかるような進行例が大多数でした。しかし、幸いにも診断に有用なPSA(前立腺特異抗原)採血検査が出てきたため、早期発見例が飛躍的に増加しました。また、このPSA検査を用いた前立腺がん検診も自治体検診として行われ、早期発見に寄与しています。おしっこが出にくい、おしっこの回数が多いなどの排尿の症状のある方、前立腺がんが心配な方は、一度、PSA採血を行うことをお勧めします。

PSA採血で高値だったら

前立腺がんの確定診断には、前立腺生検が必要です。肛門から超音波検査の機械を挿入し、超音波で観察しながら前立腺に針を刺し、組織を採取します。あまり気持ちの良い検査ではありませんが、がんの診断に加え、がんの悪さ(悪性度)がどのくらいかを診断するために必須の検査です。入院して行うこともありますが、外来で行うことも可能です。

生検で前立腺がんと診断されたら

画像診断(CT、MRI、骨シンチ検査)を行い、がんがどこまで進行しているか(病期)を診断します。

治療について

がんの悪さ(悪性度)、がんの進行具合(病期)に加え、患者さんの年齢、全身状態などを考慮して治療法を検討します。最近、オーダーメイド医療(テーラーメイド医療)という言葉がありますが、その人に合った治療を十分に検討することが重要です。もちろん、そこには患者さんの生活の質(QOL)も検討する必要があります。以下に代表的な治療法を述べます。

① 前立腺全摘除術

手術で前立腺、精嚢を摘除する方法です。お腹を切って行う方法(開腹術)と、小さな傷からカメラをお腹に入れて行う腹腔鏡手術があります。2~3週間程度の入院が必要です。

② 外照射療法

身体の外から前立腺に向けて放射線を照射する方法です。毎日少しずつの放射線を約2ヶ月間かけます。最近は副作用の軽減のため、コンピューターで照射部位を調整する方法(IMRT)が主流です。外来通院での治療が可能です。

③ 小線源療法

放射線を出す小さなピンを前立腺に留置する方法で、放射線療法の1つです。前立腺全摘除術よりは身体への負担は軽くなりますが、数日間の入院は必要です。

④ ホルモン療法(男性ホルモン抑制療法)

定期的な注射や内服薬で、男性ホルモンを低下させ、前立腺がんの勢いを止める治療法です。入院の必要はなく、身体への負担はもっとも小さい治療法ですが、治療の永続的な継続が必要です。また、がんが強くなって(ホルモン抵抗性のがんになって)治療が効かなくなることがあります。このため、年齢の若い方では基本的に適応がありません。

⑤ 待機療法

治療を行わず、定期的にPSA採血を行って経過をみる方法です。もちろん、全ての方で出来るわけではなく、年齢、悪性度、病期などの条件があります。また、治療をしないわけですから、進行する可能性があることを患者さんが納得していることも条件です。

⑥ 保険診療外の治療法

保険がきかず、自己負担は大きくなりますが、治療効果のある治療法として、超音波による治療(HIFE)、重粒子線治療などがあります。ただし、いずれも岩手県内で受けることは出来ません。